さゆらもゆらに水晶虹彩

時間と空間のむこうがわ……夢うつつのはざまに揺れて透かし見える水晶虹彩のものがたりをつむぎます。

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サイコ・ヒーラー 9 アメジスト

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9 アメジスト  

「腕を離して。さもないとちぎれるわよ」
 メグから現れたシーラは、レノンの顔から目を離さず、落ち着いた声で言いました。その間にも、シーラの肉体は親樹から枝分かれする新しい枝のように、どんどんメグから脱け出て来るので、たしかにメグひとりをギュッと巻いていたレノンの手首の長さでは、ふたりの少女の体を締めあげるのには足りず、ぴんと張りつめた挙句、どこかでぶつんと切れてしまいそうです。
 ですが、レノンはせせら笑いました。
「その逆もあるぞ。ぼくが君たちふたりを窒息させるって」
 そのとたん、メグの青い目がびかりと鋭く光りました。彼女の肩のいっぽうは、まだシーラと完全に分離してはいず、癒着したままでしたが、顔にふりかかる髪の一本ずつが、ふいにまっすぐ逆立つと、いきなり海老のようにメグは全身をのけぞらせました。
「わっ」
 レノンははっきり悲鳴をあげました。肉の焦げるいやな臭いがして、メグとシーラに触れているレノンの皮膚のうちがわに火花がはしり、それはレノンのてのひらの真ん中でぼっと燃えあがったメグの唾液と血液から発火し、伝播した灼熱でした。
「メグ、暴れないで」
 シーラは、分離したほうの片手で、メグのうなじを後ろから抑えました。そして、
「レノン、あたしたちを離して。さもないとこの子はあなたを殺してしまう。メグに敵意があるわけじゃない。あなたがメグに殺意を向けるので、この子は自分の〈生の意志〉に従って、あなたを排除しようとする。あなたにはわかるでしょう、こうなったメグに、メグの人格はないってことが」
「ぼくより強力だって? ぼくの中には」
「そう、何百人、何千人ぶんかの〈憎悪〉と〈恨み〉のエネルギーがある。長い歳月のあいだに、あなたに引き寄せられ、あなたという器が吸収してきたネガティブなマインド。それがレノンの力の源泉。でもレノン、そういうブラックボックスは、いつしかあなたをあなた自身ではなくしている」
「うるさい」
 レノンはひきつった顔で怒鳴りました。
「死んじゃえ!」
 その瞬間、三人の周囲で、ばきっと乾いた木の枝がいくつも砕けるような音がして、メグの全身が、また青白く発光しました。シーラは歯を食いしばって、空間の裂ける衝撃をこらえ、ずたずたにちぎれ飛んだレノンの腕から開放されて海に落下しましたが、まだメグと腰から下は癒着したまま、メグの放つ放電はシーラもいっしょに包みこみ、水に沈みもせず、波の面を毬のように何度も弾んで、そのままくるりと草地に降り立ちました。
 レノンは燃え残った自分の肘を抑え、うめき声をあげるのも忘れて、呆然と空中に浮いていました。
「どうしてそんなに急激に進化できる?」
「あたしがコントロールしているから。いいえ、メグは、自分と合体したシーラの機能を使って、あなたを攻撃したのよ。レノン、今あたしとメグは見てのとおり、シャム双生児のように体がくっついている。あたしたちの力は、ごく自然にひとつになって、メグは自分だけではまだコントロールできなかった未分化で未知の力を、あたしの経験識を通じて自在に使っている」
 シーラの横に、メグは青い瞳のまま、冷ややかな無表情で立っていました。レノンの束縛から離れたというのに、安堵も喜びも彼女の顔には浮かんでいず、かるくシーラによりかかるように上半身をひねり、片腕をシーラの腰にまわして、黙りこくってレノンを眺めていましたが、光りの強い青い瞳の焦点は、ほんとうのところ、眼の前のレノンにあるのか、それとも彼の向こうがわの銀盤かがやく水平線にあるのか定かではありません。
「君を見くびっていたようだ、シーラ」
 レノンは口惜しそうに言いました。
「君はメグの正体を知っている。メグは何者なんだ」
「メグはメグ。すくすく育った素直で陽気な十一歳と数ヶ月の…ごくふつうの女の子。だけどこの子自身自覚していなかった裏側に、この子だけが自由に開閉できるコムニタスの扉があって、時としてメグを通じてそのコムニタス〈混沌・カオス〉のエネルギーがこの世に、出現してくる」
「いなかった、ということは、もうわかっている、わかりかけているってことだね」
「……」
「君もそうなんだろ? 扉のひとつ?」
 レノンはしらじらとした顔でシーラに問いました。いつのまにか彼の眼からは、もう赤い光は消えています。
「レノン。あなたがメグを自分だけのパラレルに押さえつけておこうとするのは無理。コムニタスは、理非善悪とは無関係に、ただひたすら生きようとする、宇宙普遍の前進エネルギーなのだから、妨げるすべてをなぎたおして、暴走する。……あたしは扉ではない。そうね、未知の領域、あちらがわから流れ込んでくるカオスの力の使い手というところ」
「千手…千の手か」
「姓名は偶然よ」
「偶然はすべて必然だ」
「レノン、そこまで認識していながら、なぜ邪なままさまよう? あなたの人格はあなたの中に溜まった、本来はあなたではないモノたちのネガティブなマインドで、ゆがめられ化け物みたいに膨らんでいる」
「そのモンスターパワーを総動員してもメグは捕まえられない?」
 レノンは風に吹かれて舞い落ちる葉っぱのように、体を小さくまるめてゆっくりと中空から草原に降り立ちました。背丈の違う姉妹のように下半身くっついた少女ふたりの前にたたずんだレノンの柔らかい金髪を、草原を渡る風が涼しく撫でて吹きすぎてゆき、肘から先の片腕をなくしてしまったというのに、レノンはちっとも痛がっていませんでした。
「からっぽのメグがあなたを満たしてくれるわけじゃない。あなたの退屈しのぎのコレクションに、すぐに飽きてしまう人形がひとつ増えるだけ」
「じゃ、君はぼくにどうしろって言うんだ。サイコヒーラーなんてさ、さまよえる魂を癒すのがお役目? 思い上がりだ。癒してくれよ、それがほんとうなら」
「一番適切な問いはこうだよ、レノン」
 シーラの問いかけは、そのときごく自然に本来の少年の声になっていました。
「レノンはどうしたいんだ。誰かに決めてもらうことじゃない。あなた自身、どうしたいんだろう」
 レノンは黙りました。顎が自分の胸にくっつくくらいうつむいて、しばらくしんと考え込んでいるように見えました。
「レノン」
 シーラはそっとレノンの肩に手を添え、また少女の声に戻って、いたわるように優しく呼びかけました。
 パシン、とレノンは彼女の手を荒々しくはらいのけ、痩せた体を猫のように震わせ、
「わかりゃしないさ。ぼくの望みだって?
ぼくは生きたい。歩きたい。不可能だ。君たちにはらくらくとできることが、ぼくには絶対できないんだ。この先もずっとチューブにつながれて。何十年かさきにやつれ果てて死ぬまで! いんちきエクソシストのシーラ&メグ。君〈タチ〉のおためごかしのアドバイスはこうだ。他人を巻き添えにする邪悪な念から解き放たれて、光り輝く天国の門をくぐりなさい。狭き門を選びなさい。ハ、ハ、大笑いだ。現実に治癒不可能な肉体のぼくが、ぼくの欲望から解放されるってことは、つまり死を選べってことだろ。いやだね!」
 そのとおりでした。生きたい、生き延びたい、なぜ自分はこんな不幸せな肉体に閉じ込められているのか? 誰がレノンの苦しい魂を癒せるだろう、と、シーラはレノンの絶叫をあるがままに受けとめました。
「いいえ、死んだって、レノン、あなたは必ず死霊になってさまよう。だからあなたを殺しはしない。死霊、悪霊は、現世をさすらううちに、もとの人格も失ってしまい、あらゆる汚れた感情のカスをむさぼりくらって、醜い餓鬼になるだけだ」
「そこで君のお出ましか、シーラ」
 虚勢をはって、レノンはさらに声をはりあげました。
「人格のない、同情の余地のない、どぶ泥餓鬼なら、良心の咎めなくたたきつぶせる、ヒーラーなんて名乗って、つまり今までそうしてきたんだろ? コムニタスキャラのメグに今、ぼくを殺させないのも、ぼくがこれ以上厄介な死霊になるのを防ぐためなんだ」
 レノンの眼に大粒の涙がにじみました。ポロリ、とこぼれる音が聴こえそうなほど大きい涙は血のいろさながらに赤く、陰気に黒ずみ、レノンの蒼白な頬をすべり落ち……シーラは思わず息を呑みました。
「レノン、あなたの涙」
 粘り気のある真紅の粒が少年の頬を流れるのといっしょに、はっきりと肉の焦げる独得の臭いと、水分を含んだ物質が灼かれるときのジュウッという音がしました。レノンの眼から次々とあふれる涙の流れるままに頬は焼け焦げ、熱で溶けた皮膚から水蒸気がたちのぼり、その間にも、胸に、腹に、袖にしたたった彼の血の涙は、彼自身を焼いて、じきにギンガムチェックのパジャマがぶすぶすとくすぶり始めました。
「熱い……」
 レノンは弱々しくシーラとメグに訴えました。涙をこぼすのをやめれば、少年は焼かれないのでしょうに、レノンの顔は、もうすでに表皮が剥けてぼろぼろになり、真皮まで爛れ通り、正視できないほど無惨な状態になりながら、それでも二つの瞳からは、どんどん体液があふれてくるのでした。
レノンが顔を伝う涙を、残った手の甲でこすると、もろくなった頬肉のかたまりがいっきにこそげおち、そのいきおいで鼻の隆起も、熱で溶けて剥がれるように顔からとれてしまい、あとにはぼかっと二つの鼻の穴が、髑髏マークみたいに残りました。レノンはなお、あえぎながら喋ろうとするのですが、溶岩のような涙の流れは、上下の唇も焼きぬいてしまい、唇を失った彼の声はちゃんとした発音にはならないのでした。
あまりのむごさに顔をそむけ、シーラはあとじさりしましたが、メグはその場にじっと立ったまま、何の動揺もなくレノンの崩壊を眺めているのでした。感情の照り翳りのない小さな顔の中で、風を渡る蝶々の羽のように、二つの青い瞳は長い睫毛をゆっくりと閉じたり開いたりしていました。
 この子は今何を見ている?、とシーラはメグの視野に入ってみましたが、シーラが覗いたメグのまなざしの中には、天地左右のないいちめんの夏空の中を、すさまじい速度で疾走してゆく大小さまざまの雲の怒涛、荒々しくうねり渦巻き、それでいて無駄のない優美な流体のパノラマが映っているだけでした。
(レノンがいない。それとも、メグのとらえているレノンの本質は、この無限に飛びゆく流体ということか?)
 ……オクワイ…アイ…
 シーラの脳に、ふたたび瀕死のレノンの絶望が突き刺さってきました。レノンの全身は、もうすっかり足元から炎と煙に包まれています。それは彼の流した涙、彼が吸収し、彼の蓄えた負のエネルギーが、今ブーメランとなって彼自身を焼き滅ぼしているのでした。
「ぼくは、生きたい!」
 いきなりまっすぐなかんだかい少年の声に、シーラはおどろきました。それは燃えているレノンの肉体からではなく、隣のメグの喉から発せられた叫びでした。
「死ぬのはいやだ。殺さないで、ぼくは生きたい!」
 レノンの声で叫びながら、ずい、とメグは燃えている少年に向かって一歩踏み出しました。すると、黒煙に包まれたレノンも、片手をあげてメグによろよろと近寄りました。メグは手をさしのべ、シーラは反射的にメグをひきとどめようとしましたが、コムニタスのエネルギーの押し出すメグの一歩一歩は、とうていシーラの制御のきくものではありませんでした。
「メグ、燃え移る!」
 シーラがメグの手を抑えても、メグはそのまま、レノンに近寄ってゆき、燃えている少年の手をぎゅっとつかみました。
焼かれるか、とシーラは緊張して、思わず呼吸を止めましたが、メグの全身は、また金属が底光りするような鋭い放電を始め、癒着しているシーラも一つに包み、レノンを生きながら焼く炎はその放電に弾かれ、レノンに触れたメグの手はすこしも損なわれることなく、彼の胸にてのひらをあて、今度はメグの声で、こう言いました。
「あなたの心臓、あなたの心」
 レノンは顔をあげ、残骸の眼窩にグズグズと溶け残った眼球らしきものが、メグを探して、左右ふぞろいにすこし動きました。そこからはなお、ぽたぽたどろどろと赤黒い液体がしたたり、彼を焼き続けてやまないのです。
 一瞬、メグはまなじりをつりあげ、レノンの胸に押し付けたてのひらにぎゅっと力をこめました。溶けた肉は、メグの発光するてのひらの圧を無抵抗にひきうけてくぼみ、ずぶずぶとメグの手はレノンの肉体に入ってゆき、すぐにレノンの中から、彼のハートを握り出しました。
 きらきらと血に濡れ、狂おしく脈打つひとかたまりは、メグの片手にすこし余るくらいでした。レノンの胸から心臓をつかみ出すメグの手を追うように、レノンは前のめりに一歩踏み出し、けれど二歩目は続かず、ゆっくりとうつぶせに草のなかに倒れました。
 思いもよらないこの異様な光景に、シーラは感覚も思考も麻痺してしまい、メグのなすがままを凝視していました。メグは片手につかんだレノンの心臓を両手で包みなおすと、果肉を噛むように、端から少しづつ食べ始めました。メグの手の中で、ちぎれた血管がなお、ぴくぴくと痙攣し続けるレノンの心臓は、見る間に透きとおり、黒い血は草原に滴る前に、メグの放電に触れて水蒸気となって色を失い、吹き渡る風に散ってゆきました。
傷口からひきずりだされたなまなましい心臓は、徐々に半透明に変容し、ついには肉質をはさんでレノンの心臓を握るメグのてのひらの内側まで、おぼろに透けて見えるほどに変わりました。心臓の内部に残って、まだ揺れている体液もやはり透きとおり、浄化され、光のかげんで、さまざまに色彩を変えるプリズムとなって周囲に淡い虹を散らし、メグはかるく歯をたてて、レノンの光る心臓を、ゆっくりと噛み、のみこみ、ひとかけらも残さず、自分のなかに入れてしまいました。
 レノンの心臓と血の最後のひとしずくを、メグが自分のてのひらから舐めとると同時に、倒れた少年のからだから、ぽうっと白い灰が立ち、すぐに、このパラレルの平野を絶えず流れる風にさらわれ、打ち寄せる海のほうへ、あるいはその逆に、海原から押し寄せる潮のとどろきといっしょに、陽炎揺れる草原のどこかへ、音もなく消えてしまいました。
 草むらのなかには、なにひとつ残ってはいませんでした。
焼け滅びたレノンの遺体も、衣服の切れ端さえ。彼が倒れた跡には、草花がその重さと熱にひしがれ、少し焦げかかっていましたが、それさえも風のひと吹き、ふた吹きするたびに、ゆるやかにもとの高さに起き上がり、さらさら、さやさやと、野をゆく風のままに、静かにそよぎはじめるのでした。
「レノンは…?」
 シーラはメグの顔を覗いて尋ねました。強い底光りは消えていましたが、メグの眼はやはりコバルトブルーのままでした。
「あたしにもわからないところへ帰った」
 メグはメグの声で、はっきりと答えました。
「君をとおって…生きたい、という切望のままに、生の意志の流れに呑みこまれていったんだ」
 シーラは、自分の声のどこかで、レノンがいっしょに応えている気がしました。自分の思考のどこかに、レノンが混じりこんでいるのかもしれない、とも思いました。メグの中に吸収されたということは、彼女と癒着しているシーラのなかにも、いくぶんかはレノンが入りこんでいるはずだからです。
「メグ、レノンがいなくなっても、それで全部終わったわけじゃない。彼に捕まえられていた魂たちを、解放しなくちゃ」
「うん」
「あなたにはそのひとたちがどこにいるのかわかる?」
「海の中に」
 メグは潮騒のざわめきよせるまばゆい渚のほうを向きました。
「シーラさん、飛ぶよ。ほら」
 メグが陽の光を呼び入れるように両腕を頭上にひろげ、かるく地面を蹴ると、腰と膝でくっついているシーラもいっしょに舞いあがりました。陸に吹き寄せる海風の心地よい抵抗に少女たちの髪は翼のようになびき、光りのなかでのびやかに二人は数瞬おおきく宙返りし、海のまんなかに移動しました。
「見て、このなかに」
 メグは眼下を指差しました。入り江を離れた荒磯のとどろき、真夏の太陽の下で、勢いよく高い波と波とがぶつかり、砕けては絶えず四方八方に水泡が散る深い緑の水底に、シーラは目を凝らしました。
「夜空だ!」
「シーラさん、夏の大三角形が見える」
 見つめる海は、水面の翡翠いろをどこかの深度で群青に変え、無数の星々のきらめく宇宙がその向うに拡がっているのでした。メグがレノンの罠に落ちる前に、シーラと蓼科湖畔のコテージでながめた星空より、もっと深い、もっと澄んだ藍色が、二人の真下になめらかにひろがっていて、デネブにベガにアルタイル、アークトゥルスに……アンタレス…名前もわからないさまざまな星屑たちが、海水の揺らぎに輝きを遮られることなく、きらきらと瞬いていました。
 何度か瞬きしてシーラはつぶやきました。
「ほんとうに星なの?」
「眠っている魂たちのいちばんきれいな夢、いちばんきよらかな姿。レノンが浄化されたんで、彼の夢に同化していたものも、〈怨念〉の束縛から免れ、こんな映像に見える」
「そう。あたしが垣間見たアスカさんや、ドミの……悪夢か、夢魔というくらい、グロテスクだった」
 全身に注射針の刺さった水ぶくれのアスカさんと、湖に浮かんだ二艘の小舟の間を、お手玉か毬のように飛び交っていたはっちゃんとドミニク。残酷と皮肉。ひきずりこんだたくさんの魂をおもちゃにしながら、すこしも楽しそうでなかったレノンの夢。
 メグの声を通じてシーラに返事をくれるモノは、いったい誰なんだろう、とシーラは思いました。十歳のメグのキャラクターでないのはもちろん、シーラも超え、それではレノンかと考えれば、当然違っているのでした。
 コムニタスに人格や意志があるのか、とシーラはメグを見つめました。シーラの想いを察したのか、メグはシーラの手をつかむと、
「夢の宇宙に入るよ。このひとたちを、レノンと同じように帰してあげる」
「どうやって?」
「もといた世界、もといた時間。でなければ、その時空のできるだけ近く」
 そうか、とシーラはうなずきました。パラレルでは時空は制約されない。だから、ここにいる魂たちがレノンにひきずりこまれた瞬間に、もういちどフィードバックされるなら、何のトラブルも起きなかったことになるはずだ。再現の際に、多少時間や空間にずれが生じても、おおかたは迷子や、一瞬の失見当による事故くらいでおさまるだろう。
「では、魂と肉体がほとんど死んでしまったひとは……たとえばアスカさんみたいな……どうなる?」
「彼岸へ」
 メグは迷わず断言しました。
「生きているうちに魂の弾力を失くしてしまっていたひとは、時空を渡る飛翔力を持たないから」
「自然淘汰されるということか」
「うん」
 さあ、とメグはシーラを促し、両手で自分の膝を抱えると、反動をつけてくるっと逆転し、水底へ、その向うにつらなる夢の銀河へと沈んでゆきました。

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