さゆらもゆらに水晶虹彩

時間と空間のむこうがわ……夢うつつのはざまに揺れて透かし見える水晶虹彩のものがたりをつむぎます。

スポンサーサイト

Posted by 水市夢の on

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スウィート・ハニー・スプリット 1

Posted by 水市夢の on   0 comments   0 trackback

  スウィート・ハニー・スプリット 1

 海開きも近い夜明けの海岸通りは、寄せてくる満ち潮の香りと、岬の森に集まる鳥たちのさえずり、真夏に向かって生茂る樹木の息吹が空を満たしていました。
「ミソサザイの声が聞こえるぞ」
 織都留浜から星月夜岬にかけてひとめぐり、それから藤塚に戻る早足のウォーキングに息切れした駿男さんは、自分より半歩先を行くメグに向かって声をかけました。
「ミソ…なに?」
 メグはふりかえり、足を停めました。娘が立ち止まり、にこっと自分に微笑んだ瞬間、ほのかに日焼けしたメグの小麦色の皮膚から周囲の青葉とよく似た、でもそれよりもっと濃い夏の汗の匂いが、ふわっと父親のほうに流れてきて、駿男さんはどきんとしました。
昨年の晩秋、交通事故に遭って骨折入院、それから事情を知る誰もが驚く速さで退院してから半年近く、メグはもうすっかり回復していました。年明けには学校に戻り、しばらく体育の授業をお休みしたくらいで、新学期には後遺症の気配もなく元気に過ごしています。九月七日の誕生日が来れば、メグは十二歳です。
桜の季節を過ぎたころから駿男さんは、娘の機能回復と、それから自分のヘルスコントロール目的で、早朝のジョギングを始めました。最初は十一月の県民フルマラソン出場という壮大な目標をかかげて、親子のモーチベーションはおおいに盛り上がったのですが、じきに軌道は修正され、マラソンはジョギングに、それからぶらぶら歩き、もといバードウォッチングを兼ねた海岸沿いウォーキングにおさまりました。目標がだいぶ小さくなっても、いちおう凝り性のパパさんは結構立派な双眼鏡を購入し、文庫より小さいハンディサイズの小鳥ガイドブックをウォーキングの際には、いつも持っています。
「どこにいるの?」
朝五時から六時にかけて、正味一時間強の早足に途中休憩なんて、メグにはぜんぜん必要ないのですが、肥満ではないものの、かなりメタボ傾向の父親を気遣って、毎朝どこかですこしお休みしてあげるのでした。
「あれさ、あの声だよ。ツピピ…ってさえずりを空に転がすみたいに鳴いてるヤツ」
「うぐいすじゃないの?」
「違うよ。ミソサザイの声はもっと勢いがあって早口なんだ」
「うぐいすはのんびり?」
「うーん。声と声の間で、うっとりしてる。わかるだろ、ボクの声ってなんてきれいなんだろホーホケキョ、ケキョケキョって」
「ナルシストなわけ?」
「名テノールだって自覚してるのさ」
「ホーホケキョって言い方、平凡すぎ」
「だって言葉で真似できないよ。口笛ならなんとかなるけど」
「で、ミソはどこにいるかわかる?」
「あそこらへんじゃない?」
 駿男さんは、適当に朝の空のどこかをめがけて双眼鏡を向けました。でも、潮騒混じりの森さやぎのどこにも、それらしい小鳥の姿はないのでした。貸してよ、とメグは父親の手から双眼鏡をとりあげ、さえずりの方角を探して、器用にくるりとレンズの焦点を合わせます。彼女の背丈は、もう駿男さんの肩よりすこし上に伸びていました。
(百六十センチ近いかな。退院してから、いっきにデカくなった感じ)
 つやつやしたセミロングの髪を無造作に束ね、汗ばんだ横顔から首筋にかけて、すっきりと整った印象が、亡き妻にうりふたつです。
(身長だけなら、安美さんともう同じくらいなんだ)
でも肩や腕にまだ肉付きはうすくて、ショートパンツからすうっと伸びた膝もふくらはぎも、まだ女性らしい丸みをおびてはいないのでした。それが駿男さんを安心させ、逆に見るもまぶしい思いもかきたてるのでした。
(若葉木洩れ日のまぶしさってヤツだね)
 駿男さんは娘から眼を逸らし、でも離れがたくて、メグが無心にからだを寄せてくるままに立ち止まっていました。
「わりかし地味めの子だよね、ミソは」
「ミソサザイだってば」
「あれでしょ」
 とメグはそこから少し離れた斜め上空の電線にとまっているモノトーンに近い小柄な子を、双眼鏡をかけたまま指差しました。
「え、見つかったの、ほんとに?」
「ナニソレ。パパまたでたらめ?」
「またってなんだよ」
「ミソはあそこ。喉を朝日に向けて反り返ってる。胸をはって」
 メグはパパの苦情を無視して小鳥に向かってそっと手を振りました。
「ぼくにも見せてよ」
 と駿男さんはメグの手から双眼鏡をもらって、小鳥の姿を探しました。でも、本音のところ小鳥なんか、いつだってどうだっていいのでした。
「パパ帰らないと。遅刻する」
「うん、でも喉渇いた。あそこのコンビニ寄ってお茶買ってきて。今日水筒忘れた」
 時刻は六時半を回っていました。親子の脇を早足で、仔犬を連れた半白髪の男性ウォーカーが追い抜いてゆき、その腰からぶらさがった携帯ラジオから、ラジオ体操の歌が聞こえました。
 夏の陽射しはぐんぐん昇り、同時に県道のアスファルトから心地よい程度の熱気も昇ってきます。それは、このまま梅雨の晴れ間が日中まで続くなら、あと数時間で酷暑にかわるかもしれない夏日の兆しでした。周辺に群がり咲いている紫陽花は、もうすこし色褪せはじめているのでした。
 メグは額の汗を手の甲でぬぐうと、はずしていたピンクと水玉のキャップをかぶりなおし、小走りにコンビニにかけてゆきました。
「どうせ帰り道なんだから、ずるしないでパパも来てよ」
 と呼びつけられて、駿男さんも娘のあとを追いました。
「アイスクリーム食べたいなあ、いい?」
「朝からなんだよ、肥るぞ」
「成長するの」
 しなくていい、と駿男さんはあやうく口走りそうになり、べそかいたみたいに唇をへの字にまげました。君、成長しちゃったら俺から離れていっちゃうんだろ。
 そんなせつなさが、きれいになってゆく我が娘を見るたびに、心のどこかをよぎってゆくのでした。このところ、まるで目に見える速さで伸びてゆく植物の新芽か若葉のようにメグの身長の伸びかたが早いのです。
(汗のにおいまできれいだ。ったく少女って生き物は、とんでもないね)
 桜並木の下のコンビニは、この早朝の時刻なのに数人の客がはいっていました。出勤前のサラリーマン、散歩途中の若い主婦、高齢者、それから……。
 メグはアイスボックスからこのごろ気に入っているストロベリー&ミントミックスのアイスクリーム、ついでに駿男さんにはクリーム抜きの小豆アイスを選んでレジに並ぶと、ちょうどパパさんが入ってきて、そのすぐ後ろから、七歳くらいの娘の手をひいた若い父親が続きました。三十代半ばくらいの父親は小脇に雑誌やら方眼紙やら、いろんな資料をかるくまるめて抱え、空いている手で、まだちいさい女の子の手をひっぱるようにしていぱした。父親が長身なので、女の子はどうかすると踵から床を離れ、握られている手から、ぶらさがってしまいそうに見えるのでした。
(お人形みたいな子だなあ)
 メグは支払いの順番を待ちながら漠然と感想を抱きました。
「メグ、これ」
 娘に千円札を手渡した駿男さんは、メグの視線をたどって、女の子を見ると、少し息遣いを変えました。
 へえ、と五十三歳の彼が無遠慮に目をむいてしまうくらい、まだ六、七歳のその子は可愛かったのでした。いえ、ごく普通にきれい可愛い、という形容から逸れてしまう印象でした。
 真ん中から二つに分けてそれぞれをピンクのリボンで結んだ薄茶色の髪はゆるい巻き毛で、そんな幼さでまさかパーマとも思えないので、きっと地毛が縮れているのでしょう。目鼻がぱっちりと明るく整っているのはシーラと同じなのですが、この子の顔だちに混血の気配はありません。肌は白くて日焼けもなく、夏服らしく大きく開いた襟ぐりと袖と裾に白い縁取り綿レースをいっぱい飾った濃いピンクのワンピースを着ていました。 
リップスティックを塗っているかと見えるくらい半開きの小さい唇は赤く、父親の手にぶらさがったまま、店に入ってくるなり、ゆっくりと周りを目だけで眺め渡し、自分に視線を注いでいる相手を探し出すと、髪の色と同じ薄茶色の睫毛ごしにまず駿男さんを見上げ、小首をすこし傾け、緩めた口許のまま、うっすらと笑顔になりました。それからメグのほうを見て、こちらにもいちおう笑顔のままでしたが、駿男さんに投げかけた網のような情緒は消えていました。
女の子の眼と自分の眼がぶつかったとき、駿男さんは、ちょっとぞっとしました。その一瞬、彼は自分の鼻先に呼吸を吹きかけられたような気がしたのです。
ごく自然な足取りで、父親はすたすたとコピー機に向かい、機械の操作を始めると、父親の手を離れた女の子は、ゆらゆらした足取りで店を一周し、レジ前に来ると、ちょうどアイスクリームの代金を払い、おつりをうけとろうとしていたメグの前に入り込み、メグを見もせずに、無造作にレジ台のつり銭をつかんだのでした。
「え、それ、あたしの」
 店員とメグ、駿男さんの眼の前で横取りの仕草はまったく自然でした。店員はあっけにとられ、半信半疑の顔つきで、
「妹さんですか?」
 とメグに尋ねたほどです。メグは首を振り駿男さんは絶句していました。
「あ、こらっ、マヤちゃん、だめでしょう」
 事態に気が付いた父親が、すこしあわてた口調でコピー機から離れて飛んできて、娘の手から小銭をもぎとってメグに戻し、痩せた背中をまるめてひょこんと頭をさげ、
「すみません、この子ったら」
「君の娘さんなの?」
 駿男さんは青年をしげしげ見つめました。
(似てないな。この青年も白皙ビセイネンだけど)
「ええ。ぼくの娘です。すいません、へんな癖があって」
「癖?」
「はあ」
 青年は青白い面長の顔に、曖昧な微笑を浮かべました。言葉では謝っていても、ちっとも悪びれていないのでした。
(もの心ついた子供が、他人のつり銭を白昼堂々と盗んでおいて、それを癖とかなんとかで言い訳できるレベルじゃないぞ)
「いつもやるの、この子」
「ん、さあ、どうかな…」
 青年は切れ長の眼を忙しく左右に動かし、白い歯並びを見せてばつが悪そうに笑いました。駿男さんはその肩ごしにコピー機のほうを眺め、機材の周囲にひろげっぱなしの資料を見ると、動物や恐竜、ヨーロッパの古城、それから昔の城郭の設計図といった、何種類もの雑多な図版が重なっていました。
「パパ、もう帰らなくちゃ」
 メグは時間を気にして駿男さんを促しました。
「アイスクリーム、溶けちゃうし」
 うん、と駿男さんはうなずき、この二人に向かって青年はもういっぺんかるく、それこそ会釈程度に頭を下げました。
 メグと駿男さんが、はぐらかされた気分のままコンビニを出ると、すこし梅雨雲の集まりかけた薄い陽射しの下に、いつのまにかさっきの女の子が出てきていて、黙って駿男さんに向かって小さいてのひらをみせて、合図しました。いえ、きっと、サヨナラ、と手を振ったのですが、駿男さんには、それがまるで「またね」と再会をねだっている彼女の合図のように感じられたのでした。
バイバイ、とメグも女の子に手を振って返しましたが、駿男さんとは別な理由で、メグは眼をまるくしました。
 雲を通したうす翳りとはいえ、真夏の陽光に、光と影の境目のくっきりと際立つ世界で、女の子の足元には影がありませんでした。
白茶けたコンビニ前の駐車場のコンクリート面に、女の子は絵から抜け出した画像のように、濃いピンクのワンピース姿で浮きあがり、地面だけではなく彼女の姿のどこにも陰影の起伏がないのでした。肉体なら肉体、衣装なら衣装の作るいっさいの影を消して、あどけない美少女は微笑していました。
「パパ、あのマヤって言う子…」
 と言いかけて、自分の驚きと違和感をうまく表現できずにメグは口ごもりました。
「ケイコクの美女、栴檀双葉って言うんだ」
「なにそれ?」
「末恐ろしい美少女ってこと」
「そんなにスーパー美人になる?」
「顔やスタイルだけじゃないんだ」
(パパ、気が付いていない)
 駿男さんの眼には、この小さい女の子がごく普通の子に見えている、とメグは察し、そのいっぽうで、自分の視覚にはやはり彼女が、影のない平らな画像のようにしか映らないのをもういちど確かめました。
 コンビニの扉が開いて、父親が出てくると、娘につられるかのようにメグと駿男さんに向かって手を振りました。彼の体には、ちゃんとそれなりの陰影があり、また地面には影法師がくっついています。影のない幼女と、影を持つ青年が並んで立つと、まるで女の子は奥行きのない一枚のポスターのように陽炎にまぎれ、夏の風に吹かれて飛んでいっていしまいそうでしたし、青年のほうは、黒々と重く、そこにぽっかりと空いた、底の見えない人型の穴のようにメグの視覚には移ったのでした。
 
 大柄な青海波を濃朱で縁取りした絽の総模様の振袖の片方を肌脱ぎ、黒地に金の宝尽くしの細めの踊り帯を背中でわざと小さめの男結び、こんな破格に帯締めなどはいらないのですが、それはもう舞台衣装ですから、ガーネットは見た目の華やかさで貝の口の真ん中にきゅっと一筋、子羊の皮を細い三つ網にし、朱のエナメルを塗った紐を通しました。振袖の下は、総ラメにこまかなクリスタルビジューを織りこんだヌードカラーの全身タイツです。長すぎる裾は膝上で惜しげもなくすぱっと切り落とし、下半身は爪先までぴっちりと、やはりラメを散らした鮮やかな朱色のタイツをはいています。
筋肉質ではなく、そうかといって骨が浮いて見えるほど痩せぎすでもない脚は、ダンサーとしてはそれほど長いわけではないのですが、いかにも骨細なやわらかさが感じられて目に快く、丹念に鍛えこんだガーネットのボディラインは、遠目には崩れも見えず、肩肌脱いで衆目にさらす二の腕から脇腹にかけての曲線もうっとりと優美でした。髪はジェルをつかって固めにまとめています。もともと小柄な体格なので、こんな時代衣装をまとうと、女装した美少年のようでした。
 伴奏は息子の豹河、それから美人風のリンス。この二人は合奏ではなく交互に、それぞれ自分の好きなピースをランダムに吹きまた歌う、というかけあいでガーネットのムーヴメントを支えてゆきました。
 銀座久我ビルの地下劇場で、四季にいちどの吉良ガーネットのダンス・パフォーマンス、
今回も踊りはソロなのですが、豹河の友人の若手ネットデザイナー、という不思議な自称のアーティストの実験にもつきあっていて、ごたごたしたオブジェをいっさい置かないたっぷりとした舞台の背景には、白色のスクリーンが空間いっぱいにめぐらされ、踊り手と伴奏者の周囲には、絶えずちかちかきらきら光る極微粒の霧が、沈むともなく浮かぶともなく漂っています。
 静と動の境目で、地唄舞のようにねっとりとムーヴメントを動かしてゆくガーネットの周辺で、金銀の霧雨もいっしょにあわあわと流れてゆくのですが、やがて豹がドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」を吹きはじめると、そのこまかな霧は、ガーネットの舞の袖にあおられるよりもいきいきと躍動しはじめ、肉眼にはっきり見える規則正しい揺れかたでスクリーンに散ってゆき、ヒョウガの奏でる音のつらなりの速度と正確に呼応しながら、純白のスクリーンに、雪の結晶によく似た巨大な金銀混じり六角形の模様がくっきりとプロジェクションされました。
 満員の観客の、ため息ともどよめきともつかない声が、劇場にあふれます。
「ありゃなんだい」
 客席の一番うしろで、どういうわけか今夜は立ち見のジンさんは、横のタイジをつついてささやきました。
「しっ! あとで。今上演中だから」
「かたいこと言うなよ。君知ってるんでしょ」
 ジンさんは(いちおう)周囲に気兼ねするフリをして、タイジの耳に口を寄せてねだるのでした。このごろ禁煙目標を掲げたジンさんがひっきりなしに噛んでいるミンティアと、くしゃくしゃ髪にすりこんだオー・デ・コロンの匂いにむせて、タイジはあやうくくしゃみをしそうになりましたが、どうにかこらえ、例によって言い出したらきかないジンさんの大人子供ぶりに顔をしかめ
「(しょうがないなあ、ちっ)倍音を可視化したものらしいですよ、ぼくもよくわかんないけど」
「バイオン? バイリンガル? バイセクシャル、へゝゝ」
「やめてくれ~って言ったでしょ。みんなが迷惑するよ」
「きみの怒り声のほうがデカイぜ」
 ジンさんはへらへらと言いぬけ、ようやくうれしそうに口をつぐみました。
(このおっちゃん、俺を怒らせるのが目的なんだよな。誰に対してもこうなのかよ、そうだよ、きっと)
 タイジは憮然として舞台に視線を戻しましたが、眼は無意識に、そこから少し離れた客席の中ほどに座ったシーラへ流れ、それから最前列のいちばん隅にちょこんと腰をおろしているシャワーをたどりました。タイジの眼はシャワーからもういっぺんシーラに返り、
(髪が伸びたみたいだ。毛先だけ金髪やめたんだな。黒髪のほうがシーラさんらしい…
バイセクシャルだって? ジンさんめ。わかってたんだろうに。なにがへゝゝだよ)
周りにどんなにたくさんの観客がひしめいていても、それこそ彼女だけが独得のオーラに包まれているかのように、タイジはすぐさまシーラを見つけ出すことができるのでした。
(どうしてこんなに瞬間キャッチできるんだろうな。シーラならどこにいても、何を着ていても、すぐにわかる、感じられる、ここにいる、そこにいるって。だけどシャワーを見つけ出すのには、ちょっと手間取るんだ。かわいいけど、普段着だとそんなにめだたないから?)
 ちがう、とタイジの喉の奥がひりひりしました。
 豹は牧神のおしまいまできちんと吹きおえず、演奏はどこかでぶつっと切れて、リンスのア・カペラに交代しました。歌詞はなく、母音のAとOの中間くらいの音で、日本人ならどこかで必ず耳に入っている民謡のピースを、力まず、すこし低い声で歌います。それでもリンス独特の声の透明感は変わりませんでした。そうすると背景のスクリーンに映し出された巨大な六角形の映像は光る砂がいくつもの磁石にひきよせられるかのように分裂してゆき、亀甲か麻の葉模様に似た、すこしこまかい小紋になり、またすぐにさらさらと図形の縁から崩れて、再びひとつにまとまり、豹の笛の音の投影とはまた違うけれど、やはり六角の丸みを帯びた巨きな結晶がガーネットのうしろで月光の輪のように輝きました。
(風紋ならぬ声紋だわ)
 シーラはほっそりしたリンスの周囲を飾る、イコンの画像に描かれた光背さながらの、六角形プロジェクションの連続に見惚れました。そうすると、記憶のどこかから、いつだったでしょうか、母親に手をひかれて、ウフィツイ美術館でコレッジョやラファエルロ、リッピ…建築設計図に等しい精確なコムポジションにしたがって画面に描きこまれているために、時間も空間もがっちりと、聖なる瞬間を封じ込めて凝固したような聖母、天使、キリストの姿たちを見つめたときの、半ばおびえに似た感覚がふとよみがえってきたのでした。   
あのとき自分の手を握っていてくれたのはヴィオレッタだったろうか? それとも育ての親の修道士ダヴィデだったろうか……。詩人で画家の聖職者ダヴィデ。故郷イタリアはユカリにとって蓋をかぶせたい何かがあり、でもヴィオレッタとダヴィデとは、数少ない心のよりどころのいくつかでありました。
すこしも帰りたいとは思えないけれど、ときどきひどくなつかしい場所。柔らかく暖かく、それでいて背筋が冷たくなるほど疎ましい何かがイタリアにまつわっていて、それではユカリはすっかり日本に帰化しているのかと自問すれば、この亜熱帯の、おおむね温厚で律義な文化を守っている島国にも、なんとなく、どころか、ある部分ではまったくなじんでいない、という応えが胸の奥から返ってくるのでした。
(どっちだっていい)
 すこしばかり投げやりで、ひやりとした自意識が、ユカリのアイデンティティの根っこにあるのでした。男だって、女だって、日本だってイタリアだって……根無し草はそもそもデュランテ・スクリヴァの伝統じゃないか? 開祖はスペインからローマに来たんだそうだ。それからアビニヨンへ。
リンスの歌う日本の民謡は単調でものがなしく、ときおりヴィオレッタが口ずさんでくれた、フラメンコ・カンテの旋律によく似た感情をかきたてるのでした。
 リンスも自分の歌を途中でふっと止め、豹河とは違い、彼女はごく自然に笑顔を観客席に向けました。クラシック演奏家のステージ衣装のような濃いブルーの正装ロングドレスを着ていて、サテンの光沢のあるドレスの、たっぷりとした裾拡がりのうねに添って、こまかな金銀の倍音粒子が撫でるように波を描いてゆきました。ちょっとクラシカルに気取っていても、ファンのために、彼女は化粧も髪型もやっぱりゴスロリ=ドールスタイルです。豹河は上半身ほとんど裸で、下半身は母親を意識してか黒のたっつけ袴です。セミヌードなのですが、彼は首や腕に、アジアや中近東産らしい長短さまざまいろんなギルランダ(装飾)をしていて、今夜は豹柄の金髪をくるっと頭頂たかく、ひとつに結い上げているせいか、興福寺阿修羅像のようでした。フルートを吹くとき、ちょっと気難しげに眉根を寄せる癖も、天平彫刻に刻まれた少年たちと同じ表情でした。
(メグはパパと来てる。ほんと仲いいね)
 シーラよりまた少し前の列に並んで腰掛けた駿男さんとメグの二人連れ。開演まえにちらっと挨拶を交わし、シーラを見てうれしそうに笑ったメグの瞳のなかに、シーラは思わず……自分に対する特別な感情を汲みとろうとしたのでした。メグのなかみには、相変わらず、シーラからは触れることができません。レノンが遮っている、とわかっていても、いらだたしくあらあらしいもどかしさが、メグに逢うたびに増してゆくのでした。
(がきめ、化け物め。力ずくでひきずりだしてやりたい)
 そんな攻撃的な感情が、シーラの血を怒りから違った種類の激情に染め変えてしまうかもしれない、という機微を、レノンは予測しているのでしょうか? シーラは、世間的なまなざして測るなら、たぶん性同一性障害ということになるのでしょうが、彼女=彼の成長は、あきらかに右肩あがりに少年から青年へ猛スピードで変化してゆく季節にさしかかっているのでした。メグが幼女から少女に、それから、いまはまだ気配でしかないけれどある朝ふいに露をうけて、ゆったりとひらく花弁を体のなかで育てている、葉っぱとも花ともつかない不思議な生き物であるように。
 可視化された音の結晶画像とダンスのコラボレーションのフィナーレは、それまで交互に演奏していた豹河とリンスの合奏で締めくくられました。といっても豹は彼女の伴奏ではなく、彼のきっと一番好きな数列による即興演奏で、これはリンスが何を歌おうと、決して不調和になることはなく、また彼女の歌を下支えするわけでもなく、どこまでもナチュラルで透きとおった音色のリンスの歌のうしろを、風か、雨か、樹々のざわめきが一本の黄金のフルートからこぼれでるように、つかず離れず、聴くともなく響いてくるのでした。
ガーネットの後ろに展開する結晶はソロ演奏が合奏に変わったからといって、そのくっきりした六面体の調和をゆがめることもなく、
鋭角と鈍角、きらめく枝角は、金と銀だけの万華鏡のように画面いっぱい大小さまざまにかたちを変え、その速度だけははっきりと豹の笛の緩急につれて変化してゆくのでした。
(このまま空に浮かび上がってしまいそうだなあ)
 とメグは感じていました。耳から入ってくるものと、視覚として感じられるものの境界が、彼女にはもともと曖昧なので、たぶん、その晩来場した人々の誰よりも、はっきりと、聴覚と視覚の融合を試みたネット・デザイナーの思惑どおりに反応したのでした。タイジはメグの特異な感受性とは程遠いとはいえ、やはりちゃんと、この演出の意図を察して
(へええ。これって表面ガーネットさんをたてはいるけど、実は主役は演奏でもなくってこの場かぎりの時間と空間なんだよな。おもしろい。誰なんだろう。音楽って時間を染めてゆくものだもんね。ガーネットさんのことだから、それわかってるんだろう。けど、すごいきれい。あのキラキラ、ほんとに音の粒なのかな?)
 と、健康な判断で鑑賞していました。
パフォーマンスは大成功で、終演後、何度となくガーネットは舞台にひっぱりだされ、客席の喝采に笑顔で応えました。アンコールピースに、豹河とリンスは、趣向をがらりと変えて、ポピュラーソングをいくつか演奏し
その中には美人風のオリジナルも当然入っていました。大御所ガーネットはきりのいいところで楽屋に引っ込みましたが、リンスや豹の若いとりまきは、なかなかアイドルを放そうとはしないのでした。
「シーラさん、おひさ」
 立ち上がった客波をかきわけ、タイジはやっぱり一番最初にシーラに声をかけました。だってそうしないと、あらかじめ約束しているのでもない限り、彼女はあっというまにどこかへ雲隠れしてしまうかもしれないからです。
 シーラはタイジに気づくと、無言で屈託のない笑顔を向けました。
「ミネさん、もしかして痩せた?」
「さあ、どうかな」
「顔がほそくなったみたい」
「温泉入ってもなおんないからねー」
 といつのまにかタイジのうしろにジンさんがぴたっと張り付いていて、茶々をいれました。タイジの顔にいっきに血が昇りましたが、シーラはぜんぜん平気で、
「ジンさんこそ日本中の温泉入りつくして、このごろドイツまで遠征してるって?」
「ゲ、シーラさん耳早い。バレてんの?」
「あてずっぽうだけど、図星か」
 ジンさんは舌打ちして背中を向けました。
「何だって、ドイツがどうしたの?」
「あたしおしゃべりじゃないからよしとく」
 すげなくタイジの問いをかわしながら、シーラはおもしろそうにタイジの眼のなかを覗くのでした。庇うのか、からかうのか、なによりシーラの瞳にこころの底まで探り取られそうになり、タイジは眼を逸らしました。
(こいつ、なんでこんなにきれいなんだ)
 とタイジはくやしまぎれに、内心シーラを〈こいつ〉なんて呼んでみました。
シーラは質感の違う二枚の布を、ざっくりと片方ずつの肩から斜めに巻きつけた白い無地の袖なしを着ています。穿いているのは日本の夏の着物の紗合わせに似た、二枚重ねの半透明な黒い生地に、金糸でこまかいボーダーを丹念に縫い取りした、民族衣装ふうのパンツで、足首のすこし上のあたりを紅色の組紐できゅっと締めていました。サッシュベルトは中近東アラベスクを金糸で縫い取りした緑の絹。豹のギルランダと同じような金銅の飾りを、首にも腕にも、それからアンクレットもしていて、これはこれでそのまま舞台に上げたい姿でした。
こんなシーラの姿を見ただけで、彼女は今夜豹と行ってしまう、ということがタイジにはわかりました。胸のチクンとする刹那でもありましたが、こんな経験に、もうだいぶ慣れてしまっているので、そんなにがっかりはしませんでした。
「忙し、そうだね」
「ええ。商売繁盛」
「商売? 何の?」
「サービス業に近い。ミネさんと同業か。福祉じゃないけど」
「君学生じゃないの?」
「アルバイト」
「だよね」
「今夜、ガーネットさん打ち上げするの?」
「しないと思う。だったら初めに連絡くれるから。ミネさんは?」
「ぼくは」
 とタイジが言いかけたところに、メグが寄ってきてくれたので、タイジはほっとしました。嘘をつかずにすんだので。もしかしたらシーラをまじえてみんなで夜食くらいたのしめるかも、と期待したので、彼はその晩フリーでした。でも豹と行ってしまうことがはっきりわかっているシーラに、「自分は今夜何にも…」なんて口惜しくて言えません。
 背丈だけなら、もうじき自分に並んでしまいそうな手足のすらりと伸びたメグを見て、タイジは驚きました。
(え、この子こんなに大きくなったの。まだ小学生だったよね。めちゃきれいになった。全国美少女コンテストエントリーできそう。前からかわいかったけど)
「風間さん? 見違えちゃった」
「そう?」
「そう。大きくなったんで」
(そう? なんて返事じたいが色っぽいよ。なんか去年の暮れまでこの子、シーラさんに手をひかれて、そこらへんでアイスクリームうれしそうに舐めてたお子様だったよ)
「パパさんは?」
「パパはね」
 とメグがうしろをふりかえったとき、劇場の出口から久我ビルのエントランスにかけて、異様なざわめきが走り、劇場から帰りがけの客足がぴたっと止まりました。
「サイレンだ。救急車じゃない?」
 シーラが人波の向こう側を眺めすかしてつぶやきました。遠くで、声を抑えているのに怒鳴るような奇妙な叫び声が聞こえました。
とびおりだとよぉ
 がくっ、と膝のうしろ、ひかがみを誰かに蹴飛ばされ、危うくシーラはそのまま前のめりに転びそうになりましたが、そうではなく、いきなり強い力で虚空に宙吊りにされたのでした。いえ、宙吊りでもありませんでした。
 誰かが、何かが彼女を鷲づかみにして、劇場から違う位相に引き出したのでした。両足から重力がなくなっている感覚がそれを教え、シーラは最初の衝撃をこらえると、冷静に辺りを見回しました。
「シーラさあん」
 声といっしょに、すぐ傍ですくんでいるメグを見つけました。メグは蒼ざめて、自分の両腕を体の前で組んで、なんだか寒そうに震えているみたいです。
「ここどこ? パラレル?」
 暗闇よりもややうすぼんやりとした淡墨の空間でした。あたりにすし詰めだった観客の気配が、この希薄で手ごたえのない闇のなかでどことなく感じられ、彩りを消した影のなかを、質量をうしなった、紙のように薄い人体の輪郭が幾重にも右往左往しています。
 とびおりだとびおりだとびおり……
 きゅうきゅうしゃ
 まだこども
 なんで?
 知るか
 ……号室に遺書があったって
 ざわめきを伝って飛び交っている声だけが、わりあいはっきり聞こえました。
 メグの視覚に見えるものも、シーラと同じでした。真っ暗闇のなかで、シーラと自分の姿だけがはっきり浮かび上がっています。今の今まで、舞台の熱気醒めやらぬ久我ビルの地下劇場にいたはずなのに、ここはどこ?
「人声だけ聞こえる。メグはどう?」
「うん。でも誰もいない」
「いないんじゃない。ここは現実の裏側。ていうか、誰かの心象風景に、いきなりひっぱりこまれた」
「誰の?」
「自殺したこどもの死に近い景色だろう。彼にはもう視覚がない。でも、まだ心が残っていて聴覚だけはどうにか生きてる。そこにあたしたちがシンクロしてる」
 シーラは肩や首を左右上下に動かし、自分が金縛りにあっているのではないことを確かめたとき、ふたりのすぐ前に、半透明の白っぽい影が、すうっと現れました。影はふたりのそばまで漂って止まり、その部分だけネガとポジを反転させて作った十九世紀末の人工心霊写真のようにとらえどころのない姿ですが、痩せた十四歳くらいの少年です。学生服を着ています。少年は無表情にシーラとメグをかわるがわる眺め、
「ボクは死にたかったんだけど、こんなに早くするつもりじゃなかった」
 とぼんやりした声で話しかけました。
「もう死んじゃうんだ。もう何も見えない。最後の瞬間、君たちだけが見えたんで……」
 どん、と背中を揺さぶられてメグが我に返ると駿男さんが血相かえてメグの両腕をつかんで揺さぶっていました。
「メグ大丈夫?。貧血だな、じっとしてて」
「ここ危うく酸欠過密状態だから、撤退したほうがいいよ。裏口教えます、風間さん動かせる?」
「うん助かる。キショー、なんだってこんな晩に自殺なんかしやがるんだ」
 と我が子可愛さの暴言を、パパがつい口走りたくなるのも、まあしようがないことでしたが、メグはシーラの姿を眼で追って、シーラはかるく首を振り、もの言いたげなメグの言葉を塞ぎました。
「もう搬送されたみたいね。落ちたところは久我ビルのエントランスの近くみたい。このぎゅうづめは野次馬かな。ふだんならこんなに人だかりはしないのに、ほんとにあいにく客出しとカチ合って、騒ぎがひどくなっちゃったんだわ」
 髪をかきあげて遠目に測るシーラの口調には、すこしも乱れがありませんでした。
「シーラさんは」
「楽屋へ行く。ミネさんメグをよろしく」
「ぼく要るかな?」
「要るよ。駿男パパ、ぎっくり腰だからね」
 ホント? とタイジが聴き返すのを無視して、シーラはそっとメグの額に手を置き、彼女のなかを覗こうとしたのですが、湿り気を帯びた少女の皮膚のなめらかさだけが、てのひらの内側を伝わり、シーラの長い睫毛のゆっくりとした瞬きには、何も映らないのでした。でも、メグのほうからシーラに尋ねる声は、はっきりと聞こえました。
(あの子、死んじゃったの?)
 シーラは微かに顎を上下させてうなずきました。そうしないと、自分の心の声がメグに伝わるのか不安だったからです。そして自分からメグにシンクロすることが、レノンのせいでできなくなっている、という事態を、シーラはまだメグに明かしてはいないのでした。
で、駿男さんはというと、シーラとメグの様子をじっと眺めて、ごく単純に
(あー、ウラヤマシ)
 さっきまでの腹立ちはどこへやら、すっかりタレ眼になって、内心つぶやいていました。
(ぼくが貧血起こしたって、シーラさん撫でてくれないもんねー。ぼく今だけメグになりたい)
 彼は正直なので、娘が命に別状なく怪我もなく、ただの貧血で、しかも自分の腕のなかでひっくりかえっている現場でなら、シーラに対してこんな感情を抱くことに、ちっとも悪びれませんでした。
「風間さん、立ち上がれますかあ」
 とタイジはしらけた顔で、上から無遠慮に駿男さんを覗き込みました。
(んとに脳天気なひとだね。シーラさんにやにさがっている場合じゃないだろって)
「はいよっ」
 と返事だけは元気よく、娘を御姫様だっこでスクワットポーズのまま膝を伸ばそうとしたところが、シーラに見とれてボーっとしゃがんでいた時間の分だけ、脚はすっかり痺れてしまい、うまく立ち上がれずによろけて、抱えたメグごとあやうく転びそうになり、すぐさまタイジにひきあげられました。
「ね? ミネさん、あとよろしく。あたし楽屋に行くから」
 またね、メグ。近いうち連絡する、と口に出して伝え、シーラは人知れず苦い感情を飲み下すときの薄い微笑を浮かべました。
(このガキ、いつか削除してやる)
 レノンが、シーラとメグとのシンパシーに横槍を入れてしまったために、シーラの心からはいつのまにか、「メグは自分から離れて一人立ちしてゆく」という最初の穏やかな筋書きが、すっかり消えていました。
 タイジに助けられて立ち上がったパパの腕から、メグはするりと抜け出して、
「あたし、もう歩けるから」
「…うん」
 と駿男さんは、すこしがっかりしましたが、出口の混雑はいっこうに収まりがつかず、警察のサイレンやら、ワンサ整理のおまわりさんの高声などが次々に聞こえてくるので、ここはともかくタイジの指示どおり裏口にまわろうとしました。
「あれ?」
 と額に滲む大粒の汗を手の甲でぬぐい、またすぐに駿男さんは足を止めました。シーラが向かった楽屋のほうに、見覚えのある青年が立っていました。楽屋入り口はパネルを重ねた隠し階段になっていて、今さっきシーラが入っていったその壁の合わせ目近くに、ぼんやり、という形容がぴったりな雰囲気で立っている、派手な赤いアロハシャツに黒い麻のジャケットを重ね着した青年は、まるで駿男さんの視線を感じ取ったかのように、周囲の人だかりの中に埋もれて見えなかったちいさい女の子を、たぶん自分の足元から抱き上げました。
白地に、紺のラインの清楚なセーラーカラーの袖なしワンピースを着た幼女は、父親の胸にしがみつき、握りこぶしをつくり、そのぽっちゃりした手の指を人差し指からひらいてゆき、ピンクの舌をはっきりと外に見せて、それぞれの指先をちらっ、ちらっ、と舐め始めました。女の子の目鼻だちの並外れた鮮やかさは、群集の中で遠くから改めて眺めると、先日、早朝にコンビニで見かけたときよりずっと際立ちました。
 女の子は、ひどく熱心に、自分の両手の指を一本ずつ口に含んでいるのでした。それはまるで、とてもおいしいものを手づかみで食べたあと、指に残ったその味を、名残惜しげにしゃぶっているかのようでした。

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://donanobispacem717.blog.fc2.com/tb.php/28-10f3a644
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。